トカゲモドキ科>アジアトカゲモドキ属 >ヒョウモントカゲモドキ種
Eublepharis macularius (BLYTH, 1854)
今回は満を持してヒョウモントカゲモドキの紹介です。
本種については散々色々な方が紹介しているかと思いますが、この記事は種としてのヒョウモントカゲモドキについて、生体と論文とを比較しながら調べていきます。
飼育方法や各種モルフの紹介はありません!
今回サンプルになってもらったのは、パキスタン・パンジャブ産WF2のつぶちゃん♀。
購入時の話では「パンジャブ産」とのことでした。
パンジャブと言えばタイプ産地のソルトレンジがありますね。
つまりトポタイプとまでは言いませんが、それに近い個体ということになります。
インボイスを信じるならば、別産地の個体や各種モルフ、近縁種の血が混ざっておらず、純粋なE.m.maculariusの特徴を残した個体であると言えます。
※ただし「パンジャブ」という流通名は、産地というよりは基亜種E.m.maculariusそのものに対する呼び名のような意味合いが強く、実際のところ「パンジャブ」が本当にパンジャブ産かどうかは怪しいところです。
本種はパキスタンを中心にインド、アフガニスタンの一部に生息しているようです。
最近ネパールでも報告がありましたが、それはどうも雰囲気が違うような気がしました。(個人の感想です)
未記載種のsp. Rajasthanやsp. Himalayaにあたる可能性もありますね。
また、本種には複数の亜種が存在します。
広域に分布する種ですから、地域ごとの違いは当然あるでしょうね。
……ただし、各亜種として流通する繁殖個体については正直よくわかりません。
「モンタヌス」、「ファスキオラータ」等、亜種名を冠しているものの、親個体の産地情報まで明示されているものがほぼいません。
さらに、それぞれの亜種名つき個体に共通した特徴のようなものはありますが、それが亜種の特徴なのか、単に親個体の個性を受け継いだものなのかは判別できません。
それらの個体は基本的に色柄で区別されることが多いですが、同じ産地どころか兄弟であってもかなり個体差がありますから、決め手としてはちょっと弱いと思っています。
そもそも、論文に記載された各亜種の形態差は個体差程度のものであったりするので、産地同定が極めて重要になってきます。
ゆえに産地が不明な個体は同定も不能となってしまうのです。
また、「アフガニクス」として流通する個体には、他の「原種系レオパ」とは異なる特徴がみられますが、これも本来のE.m.afghanicusとは別物である可能性があります。
そういうわけで、各種亜種の事は一旦置いておいて、E.maculariusあるいは基亜種E.m.maculariusについて調べていきましょう。
本種が最初に記載されたのは1854年、ホソユビヤモリの一種Cyrtodactylus maculariusとしての記載でした。
タイプ産地は前述のとおり、パキスタンのパンジャーブ州ソルトレンジ(Salt Range, Punjab)。
以下はE.maculariusについて記した論文からの抜粋です。
私の解釈が間違っている可能性もあるため、詳しいことは各自原文を確認してください。
Blyth, 1854
・趾下板には結節がある
・背面中央の疣状鱗の直径は間隔よりも大きい
・第1下唇板は後頤板と接する
・背面の斑紋は直線的に並ばない(=散らばる)
Grismer, 1988、 1991
・耳孔の高さは鼻孔の11/2倍(=5.5倍ってコト?)
・吻端板の幅は長さの2倍
・頤板は幅>長さ
・尾の腹側には3列の鱗が横に並ぶ
・睫板は46-57
・背面の疣状鱗は尖る
・〃の直径は間隔より小さい
・疣状鱗の間の細鱗は大きい
・腹鱗は丸みがあり、21-30列並ぶ
Minton, 1966
・成体の背面は麦藁色から淡い灰紫色、しばしピンク色
・〃には青黒い斑点がまばらに散らばるか、網目状に融合する場合もある
・通常、幼体時の横帯の痕跡が残る
Muhammad,2009
・前肛孔は8-17、孔のない鱗で分断される場合もある
・頭胴長120-160、尾長89-90
色々書かれていますが、他の種類と被る部分もありますね。
↓実際の個体と比較して見ていきましょう。
・趾下板には結節がある
〇 趾下板の表面に突起のようなものがみられますね。
ちなみに後肢第4趾の趾下板は22くらいでした。
・吻端板の幅は長さの2倍
・頤板は幅>長さ
〇 記載通り。
・睫板は46-57
〇 46くらいに見えます。
ついでに上唇板も数えたら9枚でした。ダイオウとの識別には使えそうですね。(数えるまでもありませんが)
・第1下唇板は後頤板と接する
× 接してません。サンプルが1匹だけなので個体差なのかはなんとも言えません。
・前肛孔は8-17、孔のない鱗で分断される場合もある
〇 9-10くらいに見えます。♀なので不明瞭です。
・腹鱗は丸みがあり、21-30列並ぶ
〇 大体24くらいでした。
・背面の疣状鱗は尖る
・〃の直径は間隔より小さい
・疣状鱗の間の細鱗は大きい
〇 疣状鱗は種ごとの違いが結構顕著に出ますね。
・成体の背面は麦藁色から淡い灰紫色、しばしピンク色
・〃には青黒い斑点がまばらに散らばるか、網目状に融合する場合もある
・通常、幼体時の横帯の痕跡が残る
〇 記載通りですね。まあ他の種類も似たような色彩が多いですが。
帯は首に1本、胴に2本、後肢の間に1本の計4本です。
トルクメニスタンと並んで属内では最多です。
色彩は個体差が大きいですが、帯の入り方は種ごとにはっきり分かれるので指標となります。
ハイイエローをはじめとするモルフ物は、完全に帯が消失することもしばしばあります。一般にヒョウモントカゲモドキというとこちらの印象が強いですね。
一方、野生個体の写真やWCB個体を見ると、成熟した個体でもしっかり帯模様を持っているのが分かります。どちらかと言えばこれが本来のパターンなのでしょうね。
念のために調べてみましたが、この個体がヒョウモントカゲモドキE.maculariusであるのは間違いないかと思います。
他の亜種との比較がないため、E.m.maculariusかどうかという点は微妙ですが、違うという根拠もないのでとりあえずインボイスを信用しておきます。
種の話がメインでしたが、今回登場したつぶ♀はかなり柄のメリハリが強くバキッと出ていて、サンプルにしては格好良すぎる個体かもしれません(笑)。
同じ「マキュラリウス」でも、もっと淡い色彩だったり、縞模様が消失しかかっている個体も見られます。
そういう意味では標準的ではないのかもしれません。
2000年代初期に流通していた個体などで、うちの個体にそっくりな子もいましたが。
亜種について。
私としては、表現の異なる亜種あるいは地域個体群は当然存在していると思います。
Agarwal,2022を見ると、E.maculariusの中でもいくつかの系統は確認できますから、それが亜種に相当するのかもしれません。
ただしCB個体に関してはやはり入り混じっているようですね……。
カワニナみたいに野生個体を採集できたらいいんですが、私にはほぼ不可能なので、CB個体を見ながらあーだこーだ書いてます。
モンタヌスあたりは調べてみる価値はあるかもしれませんね。
検証のために各種トカゲモドキを買い集めているように見えますが(否定はしない)、基本的に私は自分の好きな種類しか飼いません。
今いる個体たちも柄や顔つきが好きで飼ってます。
モンタヌスとかファスキオラータとして流通する個体は、正直柄があまり好みではないのでどうでしょうね~。
ピクタスなんかも見た目が完全にヒガシインドだったらちょっと悩むところです。
とか言ってますが、過去の自分はダイオウのことを「でかいマックスノー」とか、サトプラを「ほぼヒョウモン」とか言ってるんですよね。
詳しく知ることで好きになったり興味が沸くというのはよくある話です。
他の亜種もいつの間にか買ってるかもしれませんね(怖)