>ヒョウモントカゲモドキ種>アフガンヒョウモントカゲモドキ亜種
アフガンヒョウモントカゲモドキ
Eublepharis macularius afghanicus Börner,1976
流通名を真面目に検証するシリーズです。(?)
アフガニクスは特徴もはっきりしているし、念のために調べておくか……くらいの気持ちだったのですが、なんかややこしいことになりました。
※間違った部分もあるかと思います。
遠慮なくご指摘ください。それも含めて公開していくつもりです。
今回登場するのはEUCBのアフガニクス♀。
ニックネームはマカロニちゃん。
ヒョウモントカゲモドキの亜種の一つ、「E.m.afghanicus」とされる個体です。
ペットトレードにおいては「アフガニクス」とか「アフガンヒョウモントカゲモドキ」とか「アフガンTypeA」とか呼ばれる種類ですね。
現在流通しているアフガニクス(アフガンTypeA)の特徴はこんな感じかと思います。
・他亜種よりも小柄で細身
・頭部は扁平で細長い
・模様は濃く明瞭(CBの産地によって色彩に若干の違いがある)
・疣状の大型鱗が目立つ(?)
一方「TypeB」とか「原種アフガン」と呼ばれているトカゲモドキも存在していますが、こちらは大柄で色白というTypeAと真逆の特徴を持っています。
過去に「アフガニクス」のインボイスで販売されていた個体の子孫ということで、この名で呼ばれているようです。
一般的にはTypeAが「E.m.afghanicus」であり、TypeBは(afghanicus以外の)E.maculariusのいずれかとされています。
これで終わりでもいいのですが、念のため原記載を探してみました。
Börner,1976による「E.m.afghanicus」の特徴は以下の通りです。
(原文を見つけられなかったのでクリーパー77より引用)
体格など
・成体でも16cm±程度と、他の亜種より小柄
・他亜種に比べて頭部が長い
・〃頭幅が広い
・〃足趾(足の指)が長い
計数形質
・後肢第4趾の趾下板は18~21
・前肢第4趾の趾下板は15~16
模様
・頸胴部の暗色帯は3本であることが多い
・タイプ産地はアフガニスタンのジャラーラーバード
前肛孔等の記載はありませんでした。原文にも記載が無かったということなんでしょうかね?
それを踏まえて、うちの飼育個体を見ていきましょう。
青字は記載論文等、黒字はうちの飼育個体です。
>成体でも16cm±程度
〇♀ですが175mmくらいはありそうですね。160前後というには少し大きいです。
ただ属内で比べても明らかに小柄なのは間違いありません。
>他亜種に比べて頭部が長い
×大まかな計測ですが、うちの個体は頭胴長105mm(吻端~耳孔が20mm、耳孔~総排泄腔が85mm)でした。
頭胴長に対して頭部の割合は19%でした。
対して亜種不明のヒョウモン♀(少なくともアフガニクスではない)は、
これまた大まかな計測ですが、
全長230mm
頭胴長135mm(吻端~耳孔33mm、耳孔~総排泄腔102mm)
頭胴長に対して頭部の割合は約24%でした。
うーん、頭部の割合で言うとアフガニクスの方が短いですね。
ただ累代が進んだ個体は顔つきも変わってきますから、細面な子もいればショートマズルもいます。
基亜種マキュラリウスを入手したら改めて比較します。
ただ、アフガニクスとされる個体は吻が下向きというか、普通のヒョウモンとはちょっと顔つきが違うような印象はあります。
ただしこれが「E.m.afghanicus」の特徴なのかは分かりません。
>〃頭幅が広い
△胴が細いので頭でっかちに見えますが、これも頭胴長に対しての比較なので細さは関係ありません。
左:アフガニクス 19mm÷105mm=0.18(18%)
右:亜種不明ヒョウモン 26mm÷135mm=0.19(19%)
ほぼ一緒ですね。
>〃足趾(足の指)が長い
△原記載はどの指で測ったのか分かりませんが、後肢第4趾で比較してみます。
左:アフガニクス 7mm÷105mm=0.06(6%)
右:亜種不明ヒョウモン 8mm÷135mm=0.06(6%)
またしても同じですね。
>前肢第4趾の趾下板は15~16
>後肢第4趾の趾下板は18~21
△前肢13、後肢18くらいに見えます。
ついでに前肛孔も載せておきます。
♀なので分かりにくいですが10~12くらいに見えます。
尾の一節の鱗は3列、腹部の鱗の列数は18~20くらいでした。
>頸胴部の暗色帯は3本であることが多い
×これはよく言われていますが、私が調べた限りでは3本バンドの個体を見つけられませんでした。どの個体もヒョウモンと同じ4本バンドでした。
3本バンドの個体を飼育しているという方がいたら教えてください。
ちなみに属内に目を向けるとサトプラトカゲモドキ、オバケトカゲモドキが3本、
ヒガシインドトカゲモドキとダイオウトカゲモドキが2本です。
柄が乱れるとこの通りにはならない場合もあります。
ここまで比較して思ったのですが、「E.m.afghanicus」と「アフガニクス」は小柄ということ以外ほとんどの特徴が一致しないか、決め手にならないのです。
これはどういうことなのか?
この答えになりそうなのは、またしてもAgarwal2022です。
この研究ではアフガニクスとして販売されたCB個体も対象になっています。
それによるとmacularius+未記載種3種が単系統群を形成し、さらにそれらはサトプラトカゲモドキと姉妹群となります。
ここではCB「アフガニクス」はmaculariusではなくsp.Himalayaに内包されています。
┌ーーmacularius
┌ー┤
│ └┬ーHimalaya(CBアフガニクスはここ)
│ └ーRajastan
┌ー┤
│ └ーーーーPakistan
┤
└ーーーーーーSatpuraensis
↑雑ですが自作の図です。黒丸は模式産地です。
マップと照らし合わせてみると、E.m.afghanicusの模式産地と、sp.Himalayaの採集地点はパキスタンを挟んでかなり距離があります。
アフガニクスとE.m.afghanicusが同種というのはちょっと不自然な感じがしますね。
産地情報つきのアフガニクスがいれば検証できそうですが、どなたかお持ちでしょうか……?
ここからは私の妄想ですが、こんな可能性が考えられます。
①通称アフガニクス(TypeA)はsp.Himalaya(未記載種)。
E.m.afghanicusはsp.Pakistan(未記載種)。
②通称アフガニクス(TypeA)はsp.Himalaya(未記載種)。
E.m.afghanicusはmaculariusの未知の亜種。
sp.PakistanはE.m.afghanicusとも違う未記載種。
E.m.afghanicusの記載論文に書かれた情報が真実だとすれば、maculariusとは異なる特徴を持っているのは確かです。
E.m.afghanicus=sp.Pakistanだと考えると3本ラインという話もなんとなく説得力が出てきませんか?
まあアフガニクスの正体が何であれ、本種の可愛らしさと格好良さはオンリーワンです。分類的な話は別として本当にいいトカゲだと思います。
ただ、だからこそわざと違う産地の名前を付けて混乱を招くような真似は許せませんね!